10月も終わり頃になると、夜の空気は澄み切って凛とした冷たささえ感じるほどである。秋の夜、殊に煌々と月が冴え渡るような夜が来る時期になると思い出す、幼き頃の切ない(?)思い出を紹介したいと思う。
小学4,5年の頃でした。多分工作時間の延長の行事だったと思いますが、小学校の校庭で模型飛行機を飛ばす大会のようなものがありました。プロペラに回転力を与えるゴムと、プロペラのつなぎ部分に工夫がされていて、ゴムの捻れが戻った後は、惰性でプロペラが自由回転し、かなり長時間の飛行が可能になるものが登場して間もない頃でした。大会前夜になって、私は新しく機を作成しました。大会を意識し、翼の紙の張り方、機のバランスにも神経を払い、自分でも納得のいく出来栄えに仕上がりました。出来上がると早速飛ばしたくてたまリません。というのもその日は風もなく試験飛行には打って付けの月夜でもあったのです。その当時、私は今の丹波市の佐治川(加古川の上流にあたる)に架かる、とある橋の袂に住んでいました。県道は橋の方に向けてせり上がって行く形だったので、そこから低くなっている刈り取りの済んだ田んぼに向かって、完成したばかりの模型飛行機を試験飛行させました。飛行機は予想通り、心地よいプロペラの回転音を響かせながら快調に飛んでくれました。ところがです、あろうことか機は途中から左旋回し、佐治川の方に消えてゆき、視界から全く消え去ってしまいました。あれほど煌々と冴え渡って充分遠くまで見通せると思った明るい月夜なのに・・・、しまった、と思いますが後の祭りです。川に下りてすぐに探そうかと思ったのですが、その頃の佐治川は今より水量も多く、夜で危険なのでそれはかないません。岸辺に不時着していることを期待して、翌朝一番に探しに行きましたが、ついぞ見つかりませんでした。
「一三夜 愛機はしじまに消えゆけり」