2010年5月10日月曜日

透き通る青白い目の少年

最近、とても想い出す人がいます。
私が新人看護師だった頃に出会った16才の少年です。

ICUに運ばれてきたその少年は、全身の皮膚はがさがさに硬く、関節がごつごつ出るほど痩せており、見た目はミイラのような状態でした。
強皮症の症状が進行し、内臓にも病変を来たし、栄養障害と脱水による意識低下のため救急車で運ばれて来ました。
治療が施され、幸いにもすぐに回復しましたが、ベッド上での寝たきりの生活は、褥瘡の処置や吸引、点滴など、彼にとってはたくさんの苦痛を伴う生活でした。

しかし、そんな苦痛の多い状態の中でも、彼の目はとても真っ白で、透明で、未来を見詰めている目をしていました。クルクルと目だけを動かして私の動作を追い、固くなってなかなか動かない唇でおしゃべりをします。
 
ある日、制服を着た3人の女の子と1人の男の子が彼の部屋に来ていました。
彼は、私に彼女たちを笑って紹介してくれました。
そして、彼女たちが帰った後、にこにこ嬉しそうに、
「なぁ、あの中でかわいいと思う子誰?」と聞いてきました。
私は、高校生らしい潑剌とした彼女たちとベッドで横になっている彼が全く違って見えたので、彼の質問に少し戸惑いを感じました。そして、遠慮がちに誰か1人を伝えたように思います。
続いて彼は、
「こっちから2番目の子、ムッチャかわいいやろ。僕、あの子前からずっと好きやねん。内緒やで誰にも言わんとってな。それに早く勉強せんと遅れてくる。僕こう見えても頭ええねんで」。

私は、彼の目がキラキラしていた理由がわかったように思いました。
この時から、私は彼を強皮症の少年ではなく、○○君として感じるようになりました。
勉強に悩んだり、恋をしたり、普通の高校生だったのです。

その彼は、半年後に亡くなられました。
でも、確かに病棟で一緒に共に生きていたと思います。

患者さんは、医療者に普通の会話をしてほしいとよくおっしゃいます。
でも、患者さんだけじゃありません。

私が、彼のことを最近よく想い出すのは、きっと希望に満ちた初々しい学生さんを見るからでしょう。
学生さんも1人ひとり、今を未来に向かって生きていることを感じたからでしょうね。

今、もう一度、その人を感じることを忘れていないかを問いかけたいと思います。