2009年12月15日火曜日

思いを口にするということ

少し肌寒さを感じると、心筋梗塞の患者さん大丈夫かなと、心配するのは職業病でしょうか?

その心筋梗塞で、いつも思い出す不思議な体験があります。とっても古いお話なのですが・・・。


それは、看護師として仕事をしていたある日のこと、突然、大きくて高価そうな贈答用フルーツ詰合せ(フルーツカゴ)がナースステーションに届きました。

運んでくれたのは数日前に一緒に当直勤務をした医師。

説明によると、ある患者さんの家族が突然訪問され、面会したところ、「隠岐の由紀さんに、これを渡して欲しい」と依頼されたとか。

その初めて見た巨大なカゴといい、そんな曖昧な情報を頼りに手元に品物が届いたことといい、私は唖然とするばかり。


その患者さんは、冷たい空気がピンと張り詰めた3月早朝、高速インター付近で突然胸痛を訴え、意識を消失し救急外来に搬送されたのです。

残念ながら、それは広範囲の心筋梗塞によるもので、治療の甲斐なく亡くなられました。

ご遺体の傍らには、「どんな風に、奥さんに説明する・・・」と肩を落とす同僚が二人。

何でも2泊3日で釣りに出かけ、何事もなく近畿まで帰ってきたのに、突然無言になったと思ったら真っ青だったと。

その旅先が私の郷里である隠岐の島であること、釣りは患者さんもとても楽しんでいたと教えて下さいました。

その瞬間、郷里を離れて久しくも、3月の凍てつく群青色の日本海がよみがえり、何気に「もし、あの冷たい岩場の上で胸が痛くなっていたらと思うとぞっとしますね・・・、海でなくても、隠岐の島では十分な救急治療はできなかったと思いますし。ここまで帰っていたのも、偶然かも知れませんが、少しでも家族の近くにという風にも思えます」というようなことを口にしたような。

その時、うつむいていた同僚の一人が突然顔を上げ、「そうやな・・・そんな考え方もあるよな」と一言。その後、私は勤務時間が終了し、ご家族にお会いすることはありませんでした。


これまでに見たこともない巨大なフルーツカゴを前に、この記憶をつなげて、改めてその出来事の理解を試みました。

想像するに、同僚の方は私の言葉を奥さんに伝えて下さり、奥さんなりに何かを感じ、事の次第を理解する一助になったのかと。

とは言え、自分の思いを口にしただけで・・・その言葉の影響力の大きさに慄き、ワナワナとしてしまいました。

とりあえず、最近の自分の言動も振り返ってみたりして・・・。


それより現実問題、何もしていない私は、このフルーツ食べていいのかしら(?)それも重大で。

結局、救急はチーム医療と思い、全てのスタッフにお配りすることで、その責任も公平に分配させて頂きました(勿論、事の詳細は伝えることなく!)。
最後に、この出来事以来、思いを口にすることを意識し、また注意深くありたいと思っています。


看護学科 岩切由紀